私が上生菓子にはまった三つの理由

  

私は本来、大の甘党で、古今東西、和風洋風、あんこから生クリームまで、甘いものならなんでもかんでも食べ漁ってきました。

 

その過程で、和菓子の中の上生菓子こそが日本が世界に誇れる最高のお菓子であると確信するに至ったのです。

 

 

上生菓子は手に取れば手のひらに数個同時に乗せられるほどの小さなお菓子です。しかし、その小さなお菓子の中には、他のお菓子には見られないすごい世界が詰まっているのです! 

 

 

まず、第一にその形の美しさ! 

 

私は立体絵画と呼んでいますが、まるで絵画のように色彩豊かで、彫刻のように精巧なデザイン。上生菓子づくりの技術はまさに芸術のレベルで、写実的なものから、抽象的にモディファイされたものまで様々な表現方法があります。

 

プラモデルのように細かいパーツを微に入り細に入り装飾して作り上げるこのようなお菓子は上生菓子以外に世界中どこを探しても見つからないでしょう。 

 

 

 

第二に、菓銘と造形で表現する季節感! 

 

日本には四季があり、日本人は昔から季節感というものを大切にしてきました。俳句や短歌に季語が使われ、春には桜を愛で、夏には海水浴に出かけ、虫の声に秋を感じ、冬はこたつで鍋を食べる。 

 

このような季節感をお菓子で見事に表現したものが上生菓子です。私は立体俳句と呼んでいますが、上生菓子の菓銘(お菓子の名前)は季語に相当し、この季語にぴったりの季節の事象を立体的に表現するのです。 

 

菓銘の選定から造形の創作まで、各和菓子店がオリジナルで行います。通常毎月2回のデザイン更新があり、毎回4〜6種類のお菓子を制作するので、1年間で96〜144種類もの上生菓子が各店で制作される事になり、全国でものすごい種類の上生菓子が生まれていることになるのです。こんなにバリエーションのあるお菓子は世界中どこにもありません! 

 

 

 

第三には、そのはかなさゆえの希少価値

 

美人薄命という言葉がありますが、まさに上生菓子も美しいのに短命です。職人さんが丹精込めて作り上げた渾身の作品が数日間しか存在し得ないという、はかなさがより心惹かれる大きな要素になっています。 

 

普通の芸術作品は後世に長く残されていくものですが、上生菓子は生菓子であるがために、芸術作品にもかかわらず、数日のうちに食べられ消え去ってしまいます。 

 

毎回手作りで作られる上生菓子はひとつとしてまったく同じものはできません。まさに茶道の心得である「一期一会」のように、今目の前にある上生菓子は一生に一度だけしか出会えない貴重なものなのです。

 

 

この場で公開している上生菓子は写真と菓銘のみなので、みなさんと五感のすべてを共感することはできませんが、視覚と聴覚の二つだけでも十分に上生菓子の魅力を堪能いただけると思うので、目で見て楽しみ、菓銘の響きを聴いて季節を感じていただければ幸いです。