「水仙夕涼み(すいせんゆうすずみ)」葛製:とらや
白と青の二色の餡を半分ずつ合わせまるめ、葛でくるみ、絞り布巾の上に置いて包み込み、上を紐でくくって冷やし固めたお菓子です。平成 10 年(1998)に初めて創作されました。
冬の花である「水仙」の名前が、夏のお菓子の銘の中に登場してびっくりしますよね。
室町時代に葛粉を使った葛切の原形となるお菓子が出回り、当時は「水繊(すいせん)」と呼ばれていました。
この水繊は黄色と白の短冊状の食べ物で、色合いが水仙の花色を思わせたことから「水仙」の字があてられるようになりました。
そして、葛切は「水仙羹」、葛まんじゅうは「水仙まんじゅう」、葛ちまきは「水仙ちまき」などと呼ばれるようになったわけです。
とらやさんの生菓子にも「水仙青柳」「水仙妹が袖」「水仙山吹」「水仙卯の花」「水仙常夏」「水仙巌の花」「水仙水藻の花」「水仙夏の霜」「水仙紅葉重」など、「水仙」を冠したものがたくさんありますが、いずれも葛製のお菓子です。
「水仙青柳(すいせんあおやぎ)」
「水仙卯の花(すいせんうのはな)」
「水仙巌の花(すいせんいわおのはな)」
「水仙水藻の花(すいせんみずものはな)」
「水仙紅葉重(すいせんもみじがさね)」
今回のお菓子の菓銘「水仙夕涼み」にはこのような背景があったのですね。
抽象的なお菓子なので、その配色、素材の質感、形、菓銘を手掛かりにして発想を膨らませる楽しみがあります。
”夕暮れ時、打ち水をした路地裏に床机を出し、浴衣姿で団扇を手にくつろいだり、川面をわたる風に身を任せたり。そのような懐かしい光景が思い出されます” というのがとらやさんの解釈です。