「落し文(おとしぶみ)」煉切製:桔梗屋
若草色に染めた煉切を葉の形に抜き、木型で押して葉脈をつけます。白こし餡を芯にして、そのまわりに白小豆の蜜煮を付けたものを、さきほど作った葉で巻き包み、錦玉製の露を添えたお菓子です。
「落し文」とは、本来、公然とは言えないことを記し、わざと道などに落としておく文書のことです。
密かに想う人に気持ちを伝えるため、その人に拾ってもらえそうな場所に、さりげなく落としておく恋文のたぐいもこれに含まれ、艶のある風雅な季語として、俳句などにも詠まれてきました。
さて、このお菓子の意匠は、ある虫が作った巻き葉の形にちなんだものです。
オトシブミ科の小甲虫が広葉樹の葉を筒状に丸めて中に産卵し、葉ごと地上に落としたもので、巻いた手紙の形に似ているので、こちらも「落し文」と呼ばれています。孵化した幼虫はこの葉を食べて育つのです。
この巻き葉の「落し文」を、ウグイスやホトトギスが空から落としたものと風流に解釈して、「鶯(うぐいす)の落し文」や「時鳥(ほととぎす)の落し文」と呼ばれることもあります。
お茶席の主菓子の主題として人気で、通常は5月のお菓子とされていますが、自然界で「落し文」が見られるのは、5月から7月上旬ころまでです。桔梗屋さんでは7月にも店頭に並んでいるのが嬉しいですね。
丸いレンズ状に精巧に作られた錦玉の露の輝きが美しいですね。
この手のお菓子では通常、白い煉切やこなしを珠状に丸めたものを添えることが一般的です。
この白くて小さい玉は通常、露に見立てられますが、中には虫の卵を連想させるとするものもあり、リアルすぎる解釈は少々興醒めの感も否めません。
その点、桔梗屋さんの露は透明感あふれる錦玉製なので、これなら文句なく露だと言い切れますね。
中にミニサイズの白小豆鹿の子が隠れているのも魅力です。
音たてて落ちてみどりや落し文 原石鼎