今日は東急東横線の新丸子駅前にある岡埜栄泉(おかのえいせん)さんに行ってきました。
「岡埜栄泉」といえば、豆大福で有名な上野駅前の「岡埜栄泉総本舗」さんがまず浮かびますが、東京やその周辺のあちこちで同名のお店をよく目にします。
これらは30数店あるといわれていますが、そのほとんどは本店支店の関係ではなく、それぞれ独立したお店です。
元々は浅草にあった「岡埜栄泉」が親戚筋の5軒に暖簾分けされ、そこからさらに枝分かれしていったようです。
新丸子のお店は、上野広小路にある「初租 岡埜栄泉総本舗」さんの暖簾分けだそうで、昭和11年の創業です。
新丸子の岡埜栄泉さんの名物も、もちろん豆大福ですが、今回はあえて外し、地元の故事にちなんだこの一品を購入しました。
ひとつひとつ丁寧に小箱に収められています。
この箱が凝っていて、ひとつの面が丸みを帯びた不思議な形にくり抜かれており、そこから水墨画の農村風景を望めるようになっているのです。
複雑なつくりになっているので、どこから箱を開くのか、その開封口を探すため、くるくる回しているうちに、それぞれの面に書かれている菓銘や店名、菓銘の由来を自然と見ることが出来る仕掛けです。
「八百八橋(はっぴゃくやはし)」:新丸子岡埜栄泉
卵・砂糖・小麦粉などをまぜて焼き上げた二枚の皮で、北海道産の大納言小豆を使ったつぶ餡をはさんでいます。
意味深な銘と、渋い姿のこのお菓子にはこんな由来があります。
今から250年程前の話です。この周辺には小さな水路が村中にあり、木や土で作られた橋がかけられていました。その中には江戸へ通じる重要な街道もありましたが、大雨のたびに増水で橋が流され、その都度架け替えるという不便を強いられていました。魚肥(ほしか)商で財を築いた野村文左衛門はその状況を解消すべく、私財をはたき、伊豆から石材を取り寄せ、村の隅々まで八百八つの橋を架けたと伝えられています。
この野村氏を讃えた石碑がお隣の武蔵小杉駅の駅前にあります。
地元の名所や伝説などをモチーフにして創作されたこのような郷土菓子との出会いは、和菓子屋さん巡りの醍醐味の一つですね。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、いよいよ本題の上生菓子です。
5種類の中から、すでにコレクション済の1種類を除き、4種類を購入しました。
「百合(ゆり)」煉切製:新丸子岡埜栄泉
ピンクと白にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、手技で百合の花をかたどり、黄色いそぼろのシベと緑の羊羹の葉を添えたお菓子です。
大小さまざまな大きさの小穴をたくさんあけ、花びらの斑模様を表現したのは名案ですね。
「あじさい」錦玉製:新丸子岡埜栄泉
ピンクと白の煉切をさいの目状に切り、淡黄色に染めた錦玉羹を羊羹の上に配したお菓子です。
「あやめ」煉切製:新丸子岡埜栄泉
ピンクと白にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、手技であやめをかたどり、羊羹製の葉を添えたお菓子です。
「朝露(あさつゆ)」栗餡製:新丸子岡埜栄泉
うぐいす豆の甘煮を芯にして小豆こし餡で包みまるめ、さらにそれを栗餡で包み茶巾絞り仕立てにします。その上に虎豆の甘煮、羊羹製の葉、露に見立てたさいの目の錦玉をのせたお菓子です。
最近は甘さ控えめが流行っていますが、新丸子岡埜栄泉さんの上生菓子は、がっつり濃厚な甘さが特徴です。
しっかり味付けされた骨太の味わいから、懐かしい故郷のお饅頭屋さんが思い出されました。