城下町や宿場町、門前町、旧街道沿いなどに必ずあるのが老舗の和菓子屋さんです。
今日紹介する「松むら」さんも歴史的に重要な道沿いにあります。
幕末に黒船が来航し、横浜港が開港された際、外国人居留地があった関内地区と港をつなぐ道路として開通したのが馬車道(ばしゃみち)です。
当時、外国人はこの道を馬車で行き来したことからこの名前がつきました。
この道沿いには日本初となるガス灯や街路樹が設けられ、現代でも石造りの西洋建築がいくつも残る独特の景観を誇っています。
そんな馬車道の一角で明治30年に創業した「松むら」さんは、現在で4代目となります。
関内側の入口に近い一等地に建つ店舗は、今では殺風景なビルに囲まれてしまっていますが、その古めかしい看板だけが、かろうじて歴史の長さを伝えているようです。
包装紙の柄も、お店のこだわりが現れていて興味深いですね。松むらさんでは、お餅を搗く時に欠かせない、杵がデザインされています。
まずは、人気商品の一つである「三色団子」からいただいてみましょう。
黄色は胡麻餡、白は胡桃餡入りのだんご、緑は小豆つぶ餡入りの草だんごです。
ここの名物が草餅ということもあり、緑が一番印象に残る味でした。香り際立つ鮮やかな緑は100%よもぎのみによるもので、合成着色料や保存料は使わないのが松むらさんの流儀。一串で三通りの味が楽しめる贅沢なお団子ですね。
次は、初夏の定番のお菓子、「若あゆ」です。
焼印の美しさに、しばし食べるのも忘れて見入ってしまいました。
生地はやや硬めで、中はシンプルに求肥のみ。淡白で上品な鮎の味のイメージに合わせたのか、素っ気ないほど甘さ控えめでした。
さて、いよいよ主役の登場です。ここの上生菓子は、裏千家や表千家をはじめ、いろいろな流派のお茶席で出される格調高い逸品揃いです。
今回は、6種類の中から、当コレクションに未収録の二品を購入しました。
「薔薇(ばら)」煉切製:松むら
薔薇の外見的な華やかさではなく、内に秘めた美しさをさりげなく表現した、抑制の効いた一品です。
「紫陽花(あじさい)」錦玉製:松むら
薔薇とは対照的に、鮮やかな紅色に染められた錦玉が目を引きます。雨に濡れて輝きを増す紫陽花の魅力をうまく引き出しています。
松むらさんの上生菓子は、強烈な個性や斬新さとは無縁で、長年守り継がれてきた安定感のある手堅い意匠が特徴です。