· 

聴雪(こまき)

 

「こまき」さんの作り立ての上生が無性に食べたくなり、北鎌倉に行ってきました。 

 

前回訪れた時はあいにくの大雨でしたが、今日はその時の恨みを晴らすかのような雲ひとつない快晴です。 

 

今日はどんなお菓子が迎えてくれるんだろう? 

 

 

こまきさんの上生菓子は一日に一種類のみで、注文を受けてから作ってくれるというスペシャル感から、否が応でも期待が高まります。 

 

ジャジャーン! 

 

今日の逸品はこちらです。 

 

 

経木(きょうぎ)といって、スギやヒノキなどの木を紙のように薄く削ったものを敷いた箱の中に真っ白な美しいお菓子が鎮座しています。 

 

木の自然の香りが和菓子をやさしく包み込み、家に持ち帰って食べたとき、プラスチックケース入りのものと比べ、明らかに風味が異なります。 

 

昔、食品は経木で包むのが一般的でした。この経木は通気性や殺菌性に優れていて、使用後は焼却や堆肥化利用もでき環境にも優しいので、ぜひ復活を願いたいものです。 

 

 

「聴雪(ちょうせつ)」煉切製:こまき 

黒胡麻入りの白い煉切で小豆こし餡を包みまるめ、源氏香の図を型押ししたお菓子です。 

 

 

このお菓子には2つのポイントがあります。 

 

ひとつ目は、禅語に由来する菓銘「聴雪」です。 

 

聴雪とは、字の如く雪の音を聴くことであり、雪の気配を感じ取るほどの心静かな心境を表わしています。 

 

これは虚堂(きどう)という中国南宋の僧の詩文「聴雪」に基づいたものです。 

 

寒夜 風無く竹に声あり 

疎々(そそ)密々(みつみつ)松櫺(しょうれい)を透る 

耳聞(にもん)に似(し)かず心聞(しんもん)の好(よ)きに 

歇却(けっきゃく)す 灯前半巻(はんかん)の経(きょう)

 

(解説) 

風もない寒い夜 

ただ積もった雪が笹の葉から落ちる声が、 

時には、時間をおいて、時にはあちらこちから 

松の木の合間を通って聞こえくる 

この音を聞いているのは耳ではない 

心で聞いている 

ふと、 

蝋燭の灯りで読むお経半ば、雪を聴き、 

禅の境地を悟る 

(出典:http://ameblo.jp/aratanicahors/entry-12055749053.html) 

 

真っ白な生地の中の音符のような黒い点々が雪の音をあらわしているようですね。 

 

 

二つ目のポイントはお菓子に押された「源氏香の図」です。 

 

デジタル大辞泉によると、源氏香とは、5種の香をそれぞれ5包ずつ計25包作り、任意に5包を取り出してたき、香の異同をかぎ分け、5本の縦線に横線を組み合わせた図で示すものです。図は52種あり、源氏物語54帖のうち、桐壺と夢浮橋を除く各帖の名が付けられています。

 

(出典:https://kotobank.jp/word/%E6%BA%90%E6%B0%8F%E9%A6%99-492071) 

 

5本の各線の示す香は、右から一の香、二の香、…、五の香を表し、5つの香りを聞いた後同じ香だと思ったものの線の上部を横線でつなぎます。 

 

源氏香の図は、その芸術性の高さから、和菓子の意匠ばかりでなく、着物や帯の柄・建築の装飾・蒔絵・家紋などにもよく用いられています。 

 

 

このお菓子の押し型は、二と四、三と五の香が同香なので、「初音」になります。 

 

冬の初音が雪の音だとは、洒落ていますね。

 

それにしても、作り立ての煉切のなんと美味しいこと。

  

しっとりふんわりしなやかな食感に甘美な味わい、今日も大満足の逸品でした。