「水尾の里(みずおのさと)」薯蕷製:菊屋
水色に染めた薯蕷生地で餡を包み、あえてでこぼこにまるめ、さらにその表面にところどころ箸先で小さな穴をあけています。
菊屋さんの上生菓子は一般に抽象的なものが多く、お菓子の外見だけからは何を表現しているのかわからないものが多いです。
今回のお菓子も、はじめは、何を表しているのかさっぱりわかりませんでした。
でこぼこした感じはじゃがいものようですが、水色というのが腑に落ちません。
菓銘の「水尾」から連想されたのは、昔の同級生でそんな名前の奴がいたことぐらい。(笑)
まったくのお手上げ状態です。
まず、水尾を手掛かりに調べてみることにしました。
水尾(みずお)は、京都市右京区の地名だということがわかりました。
トロッコ列車や保津川下りで有名な保津峡から北へ約4キロのところにあって、水尾は柚子(ゆず)栽培発祥の地だそうです。
ということは、この独特の風貌は柚子を表現しているのでしょうか?
さらに、お菓子の表面をよくみてみると、ところどころ小さい黄色い物体が練りこまれているのに気づきました。細かく削った柚子の果皮のようで、においをかぐと、確かにほんのり柚子の香りがします。
どうやら、柚子説は有力なようです!
でも、普通柚子なら黄色のはずですが、なぜ水色なのでしょう?
このヒントは水尾のもうひとつの名物、豊富な湧水にありました。
水尾という地名は、「きれいな水が湧く所」という意味があるそうで、実際この名前の通り、この地の湧水は京都を代表する名水として知られているといいます。
水色は、この名水の水の色に由来しているに違いないと結論付けました。
さらに、いろいろ調べた副産物として、おまけのエピソードも知ることができたのです。
水尾は、この地をこよなく愛し、後の世に「水尾天皇」とも呼ばれた「第56代清和天皇」ゆかりの地としても知られているのです。
この清和天皇は、出家後に修行のために、近畿各地の寺院をまわり、帰路、水尾山寺に立ち寄った際にこの地の景観を気に入り、この水尾を終焉の地と定めたと言い伝えられています。
どこの柚子よりも香りのいい水尾産の柚子は最高級品だそうです。
ただ、このお菓子で使われている柚子が水尾産かどうかは、不明ですが(笑)
水尾の里