「小牡鹿(さおしか)」蕨粉製:両口屋是清
小豆こし餡を丸め、その表面の一部分に少量の赤餡と黄餡をのせ、蕨粉を煉った生地で包みます。さらに、全体的にきめの細かい氷餅をまぶし、鹿の焼印を押したお菓子です。
紅葉に見立てた赤や黄色の餡が、半透明な生地越しにほのかに透けて見える様は、奥ゆかしいお茶菓子にぴったりの風情ですね。
きりりと引き締まった焼印が印象的で、目にも焼き付きます。
小牡鹿とは雄の鹿のことで、”小(さ)”は 美称の接頭語です。
鹿は万葉集の頃から、萩の花や紅葉に配して和歌によく歌われてきました。
そのほとんどは、物悲しい鹿の鳴き声を詠んだもので、『小倉百人一首』の中にある次の歌が特に有名ですね。
「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声きく時ぞ 秋は悲しき」
今日のお菓子はこの歌にちなんだものです。
秋には、雄の鹿が雌を求めて鳴くとされていて、そこに遠く離れた妻や恋人を想う感情を重ね合わせた歌です。
派手さはないですが、お菓子の内側からにじみ出てくるような趣が、この歌の世界観を見事に表現していますね。
(出典:https://goin.jp/13017)