「落柿舎(らくししゃ)」黄身しぐれ製:鶴屋吉信
小豆こし餡を黄身餡で包み蒸し上げ、こなし製のヘタをのせ熟柿を写したお菓子です。
この黄身しぐれは手が込んでいて、二層になっており、外側の黄身餡は橙色に染めているので、蒸しあがった後、ひび割れの間から内側の黄身餡の黄色が見え隠れする意匠が見事です。
ヘタの渋い色合いとも相まって、爽秋の風情を感じさせてくれるお菓子ですね。
このお菓子は、松尾芭蕉の弟子である俳人・向井去来が京都嵐山の嵯峨野に建てた別荘「落柿舎」の柿を題材にしたものです。
昔、この「落柿舎」の周辺に40本ほどの柿の木がありました。ある日、商人がやってきて、立木ごと柿を買い取る契約をしてお金を払っていきました。ところが、その日の夜、一晩中大風が吹いてほとんどの柿の実が落ちてしまいました。翌日、青ざめて駆けつけた商人に庵の主である向井去来が代金を返したという実話から「落柿舎」の名前が付けられたそうです。
この故事からすると、この柿は、庭に落ちて少しつぶれ、ひびの入った柿を表しているのかもしれませんね。
松尾芭蕉もかつて「落柿舎」に滞在し、『嵯峨日記』を著しています。
この草庵は、今も京都にありますが、現在のものは、のちに俳人・井上重厚が再建したもので、場所も建物も向井去来の時代のものとは異なっているそうです。
現在の「落柿舎」にも、入り口のところに柿の木が植えられています。ここは紅葉もきれいな場所なので、これからの季節、真っ赤に実る柿や紅葉を楽しみに、是非訪ねてみたいですね。