生地をふたつ折りにして、着物の袖のように餡を包み込む技法は和菓子でよく用いられる定番の手法です。
今日のお菓子は、千筋を付けた艶やかな羊羹生地をふたつ折りにして、白こし餡入りの雪平餅を巻き包んでいます。
でも、これだけでは、何を表しているのかわかりませんね。
さらに手を加えることによって、いろいろなものを表現できる可能性を秘めています。
例えば、トンボを添えれば、夕焼け空に。
弧線を描き、黒胡麻を添えれば、虫の音が響く夕暮れの風景に。
稲穂を添えれば、黄金色に実った稲田に。
また、紅葉を添えれば朱く色づきはじめた山肌にもなりえます。
今回は、このような、煉切でかたどった特徴的なヘタが添えられています。
「実りの秋(みのりのあき)」雪平・羊羹製:花ごろも
たちまち柿の実が浮かび上がってくるというわけですね。
秋の和菓子のテーマとして、栗とともによく取り上げられるのが柿です。
柿を主題にした上生菓子は、その果実の姿を写実的に表現したものが圧倒的に多いですが、時折、斬新な意匠に出会ってハッとさせられることがあります。
この新鮮な驚きこそが、私をいろいろな和菓子屋さんへ向かわせる原動力になっているのです。