なでしこは6〜7月頃が最盛期なので、現実的には夏の花ですが、秋の七草のひとつであり、俳句の世界では秋の季語になっています。
花びらの先が細かく糸状に裂けているのが特徴で、薄紅色の可憐な姿はたおやかと称されます。
『枕草子』の中で清少納言は、「草の花はなでしこ」と、日本の花の中でなでしこが一番よいと愛でていますし、江戸時代には、菊や朝顔と同じように愛好家によって多くの品種が育てられたといいます。
昔から日本人に愛されてきた人気の花の魅力を、今日は素敵なお菓子でお楽しみ下さい。
「撫子(なでしこ)」黄身時雨製:花ごろも
小豆こし餡を黄身餡で包み蒸し上げます。その上に薄緑色や水色に染めた麺状の煉切を並べ、さらにピンク色の羊羹製のなでしこの花を添えたお菓子です。
緑色〜水色の美しいグラデーションを描く線状の煉切は水の流れを写しているようです。水辺でけなげに咲く河原撫子(かわらなでしこ)の姿が目に浮かびますね。
このお菓子のポイントである、麺状の煉切は、「小田巻(おだまき)」という道具を使って作ります。
これは、簡単に言えば注射器のような道具で、円筒形の筒(シリンジ)と、可動式の押子(おしこ)が主な構造です。
筒の先に小さい穴があいていて、筒の中に餡を入れて、押子で圧力をかけて押し出すと、先の穴から餡が細い麺状となって出てくる仕組みです。
お菓子の台の部分は、黄味時雨(きみしぐれ)でできています。
黄身餡に上新粉などを加えた生地で小豆こし餡を包み、蒸すと表面に亀裂が入ります。偶然にできるこの亀裂やひび割れの芸術性を楽しむお菓子です。
口に入れた瞬間、ホロホロと溶けてゆく滑らかな生地、直後に口いっぱいに広がる濃厚な卵の香り、少し遅れて訪れるこし餡の品の良い甘さがたまりません。