「撫子(なでしこ)」粟羊羹製:とらや
撫子の花をかたどった型に白小豆こし餡を入れ、紅色に染めた粟羊羹を流し、固めたお菓子です。干菓子として元禄10年(1697)に創作されたお菓子が原形です。
ついつい粟(あわ)羊羹を栗(くり)羊羹と読んでしまいます。
昔、貧しい農民が粟(あわ)や稗(ひえ)などの雑穀を食べていた、という先入観があって、まさか高級な上生菓子に粟(あわ)はあり得ないだろうということで、発想が栗(くり)に向かってしまいます。
でも、粟(あわ)羊羹といっても、本物の粟(あわ)が使われているわけではありません。粟(あわ)に見立てたみじん粉(新引粉とも呼ぶ)を寒天に加えて固めたものなのです。
ぷつぷつした食感が粟(あわ)に似ているのでこう呼ばれています。
撫子は秋の七草のひとつで、一般には秋の花として知られていますが、上生菓子の題材としては初夏から出回ることが多いですね。
日本古来の撫子は、大和撫子(やまとなでしこ)と呼ばれ、清楚で可憐な、美しい日本女性への褒め言葉にもなっています。
白いみじん粉が散りばめられた生地の風合いからは、透け感のある涼しげな紗の着物を連想しますね。
盛夏でも颯爽と着物を着こなしている粋な女性の姿が浮かんできます。