撫子を写した上生菓子は今までに40種類以上集めました。
煉切製が圧倒的に多く、次いで錦玉製、こなし製のものもよく見かけます。
さらに、外郎製、求肥製、きんとん製、葛製、羊羹製、淡雪製、道明寺羹製、餅皮製などもあり、いろいろな製法を駆使し様々な意匠のものが作られています。
ただ、ひとつ不思議なのが、薯蕷製の撫子だけはまだ一度もお目にかかったことがないのです。
単純に考えると、薯蕷饅頭に撫子型の焼印を押した意匠なんかはいかにもありそうなのですが、まだ見かけたことはありませんね。
そんな中、今回ついに薯蕷製の撫子を発見したのです!
しかも、焼印ものではなく、饅頭全体が美しい撫子の形になっている精巧な一品です。
「なでしこ」薯蕷製:東宮
上質のつくね芋を使った生地の一部をピンク色にぼかし染め、小豆こし餡を包んで木型で撫子の花形に押し抜き、蒸し上げたお菓子です。
それにしても繊細な木型ですね。花びらの細かい筋模様まで見事に再現されています。
薯蕷製は蒸し上げると膨らむため、あまり込み入った複雑な意匠のものは難しく、ざっくりとした形のものしかできないと思っていましたが、ここまでデリケートな表情が出せるとは目からウロコです。
薯蕷饅頭に色を付ける場合、蒸し上げた後に、筆で色素を塗り付けることが多いのですが、このお菓子は、ぼかしの技法を使って、白い生地にピンク色の生地を加えて表現しているのがポイントです。
いかにも撫子にぴったりなやさしい色合いに仕上がっているのはこんな工夫があるからなんですね。