「秋海棠(しゅうかいどう)」煉切製:森八
薄紅色と白にぼかし染めた煉切で白こし餡を包みまるめ、手技(てわざ)のみで秋海棠の花姿をかたどった「手形もの」です。中央にちょこんと、可愛らしく黄色い丸い蕊(しべ)がのっています。
秋、薄紅色の花を垂れ下がるように咲かせる秋海棠ですが、細く伸びた花柄(枝のような部分)も淡く赤みを帯びているのがチャーミングですね。
日陰の湿地を好み、しっとりと雨に濡れた姿も趣があります。
春に咲く海棠の花を思わせるところから「秋海棠」の名前がつきましたが、まったく種類は異なり、ベゴニアの仲間です。
別名「断腸花(だんちょうか)」とも呼ばれています。
昔、ある所に美しい女性がいました。この女性にはとても思いを寄せる男性がいて、彼との逢瀬を、楽しみに待っていましたが、その彼は訳あってどうしても訪れることができなくなってしまいました。それを知らずに、女性は来る日も来る日も待ち続けましたが、それでも会うことができず、日ごとにそそぐ断腸の涙がいつしか凝って名も知らぬ草となり生えてきたのでした。この美しい女性にそっくりの薄紅色の草花は、やがて誰ともなく断腸花と呼ぶようになりました。
小さな可憐な花の姿は、確かに憂いを秘めた美女のイメージと重なるものがありますね。