女郎花は、山野のいたるところに自生し、細長い茎をもち、茎の上部に粒状の黄色い小花を無数につけます。
1つ1つの花は、直径3mm程度のごくごく小さなもので、粟粒のように見えることから「粟花」の異名もあります。
そんなわけで、ひとつひとつの花の美しさを愛でるというより、その全体的な姿を楽しむ花で、お菓子で表現する場合には、黄色いみじん粉を散らしたものを多く見かけます。
ところが、今回紹介するお菓子は珍しいことに、ひとつの花のみに焦点を当てて表現している超個性的な一品です。
「おみなえし」外郎製:岡埜栄泉
白い外郎生地で白こし餡を包み成形し、黄色い煉切製の五弁花と緑の羊羹製の葉を添え、女郎花を写したお菓子です。
初めてこのお菓子を見た時に、この白い外郎餅の独特な形が何を意味するのかわかりませんでした。
同じオミナエシ科の花で男郎花(おとこえし)という花があり、こちらは白い花で、同じような花を咲かせるものがあるので、白い生地はこの男郎花を暗示しているのかとも思いましたが、この個性的な形の説明がつきません。
そんな中、女郎花を詠んだある有名な和歌が目に留まりました。
手に取れば 袖さへにほふ をみなへし
この白露に 散らまく惜しも
(万葉集:作者未詳)
この中の「にほふ」とは匂いや香りではなく、「美しい色に染まる」とか「あざやかに色づく」というような意味になります。
(現代語訳)
手に取ると袖まで染まってしまいそうな美しい女郎花が、白露のために散ってしまうなんて惜しいことです。
女郎花の黄色い色素は花びらだけではなく、蕾や茎にも含まれていて、まるで花色が他の部分に移っていくように見える特徴があります。
そんな女郎花なので「手に取れば袖まで色で染まりそうな・・・」となるわけですね。
ということは、このお菓子の独特なへこみの形は着物の袖口を表しているのでは、と解釈しました。
できることなら、生地の一部を淡い黄色にぼかし染めて、真っ白な袖が花色に染まってきている感じを出せたらなお良かったのではないでしょうか。