「虫の音(むしのね)」煉切製:ちもと
黒ごまを練り込んだ薯蕷煉切で小豆こし餡を包み棒状に丸め、鬼簾を使って一部分に凹凸の型をつけ、包丁で切り分けます。
このお菓子の特徴は、左右の断面の模様が異なることです。向かって左側の断面の餡の面積は大きく、右側は小さくなっています。これは、部位によって中の餡の量を意図的に変えているためです。
左断面。
右断面
中を割ってみると餡の量がフェードアウトしています。
俳句の世界で、「虫」といえば、その声を愛でる秋の虫のことで、特に夜に鳴く虫をいいます。
虫たちの声は秋の夜長になくてはならないものの一つです。
秋たけなわの頃は、まるで時雨が降るように一斉にあれほど鳴いていたのに、秋が深まり、冬を前にしたこのごろは、細々と哀れむように鳴いているだけですね。
このお菓子は、徐々に下火になってゆく秋の虫の声を、餡の量を変化させて表現しているのかも知れません。
残る虫の音を心の底から深く感じながら、しみじみといただきたいお菓子です。