今日は、風格ある菓銘をもった歴史的な逸品を紹介します。
「御好梨木饅(おこのみりぼくまん)」薯蕷製:とらや
ケシの実を練り込んだ薯蕷生地で黒糖餡を包みまるめ、上部に窪みを作り、こなし製のへたを挿し、梨をかたどったお菓子です。
薯蕷生地にも黒糖を練り込み、淡い褐色の果皮の色を再現。また、ケシの実で皮のザラザラした斑点を表現しています。
このお菓子は、安永 9 年(1780)にとらやではじめて創作された『利木饅(りぼくまん)』が原形になっています。
日本では梨(なし)が「無し」に通じ、縁起が悪いということで、対義語の「有り」を用いて「有りの実」といったりします。
このお菓子の銘も同様に、「無し(梨)」の発音を避け、「梨」の字を利と木に分割して「りぼく(利木)」と読ませたことに由来しています。
また、「御好」というのは、茶道の世界で、宗匠や宮家がとりわけ好んだお菓子のことで、「御好み菓子」とも呼ばれるものです。
例えば、『千家好菓子集』の覚書によると、裏千家家元十一世の玄々斎(げんげんさい)の「御好み菓子」として、寒牡丹・春の野・寒月・仙家・此花(=咲分)・百合金団・銀杏餅・三友餅・笑くぼ・竹流し水羊羹・琥白糖・早蕨などが挙げられています。
とらやさんの歴史あるお菓子の中には、この「御好」の付いたものが他にもたくさんあります。
「御好寒紅梅」「御好生田森」「御好春気色」「御好薄氷」「御好長生餅」「御好巴饅」など、おそらく有名な茶人の御好みの逸品だったのでしょう。
このような立派な菓銘が付くと、お菓子の味わいもさらに一段と深まりますね。