「朝顔しぐれ(あさがおしぐれ)」黄身しぐれ製:清閑院
紫色に染めた黄身しぐれで朝顔の花を写し、朝露に見立てた錦玉羹(きんぎょくかん)と羊羹製の葉を添えています。
中には二種類の餡が入っています。 レモンピールの砂糖漬けの入ったレモン餡の中に錦玉羹をちりばめたものを中心にして、その周りをさらに白こし餡で包んでいます。
断面で見ると、外側のしぐれ生地も加わって、きれいな三層構造になっているのがわかります。レモンの酸味がさわやかな夏の涼味あふれるお菓子です。
今年、20種類以上の朝顔のお菓子を食べましたが、その中で一番おいしかったのが、この「朝顔しぐれ」です。
「夏はいかにも涼しきやうに」と千利休も言っているように、蒸し暑い日本では、夏は生活や文化のすべてにおいて涼しさが第一とされています。
上生菓子の世界でも、涼やかな雰囲気を出すために、透明感あふれる錦玉や葛などの素材を使った作品が中心になります。
この「朝顔しぐれ」も涼しさを演出するためにいろいろな工夫がされています。
まず、菓銘の一番最初にある「朝」という漢字、暑い夏の一日の中でも、朝、とくに早朝は比較的涼しく、朝涼(あさすず)という言葉もあるほど、涼感あふれる漢字です。
また、「しぐれ」というのは、時雨と書き、本来、秋から冬にかけて、一時的に降ったり止んだりする雨や雪のことを意味しますが、こんな時雨を想像するだけでも涼しくなりますよね。
お菓子の名前を聞いただけで、体感温度が2、3度は下がったような気がします。
さらに、朝露に見立てたさいの目状の錦玉を添えた朝顔の爽やかな花色と外見も暑さを和らげてくれます。
さらにさらに、レモンのすっぱさも涼しさを感じさせる味で、このような酸味は、暑い夏、食欲がないときでも食欲増進効果があり、夏バテの予防にもなります。
このように、小さなお菓子の中に、幾通りもの涼しくなる仕掛けを仕込んだ上生菓子は、思いやりのいっぱい詰まったお菓子でもあるのですね。