肝試しを主題にして創作された「提灯お化け」というお菓子を以前に紹介しました。
その際に、熱心なフォロワーの方から「豆腐小僧(とうふこぞう)」という愛らしい妖怪がいることを教えていただき、これをお菓子にしても面白いのではというアイデアをいただきました。
豆腐小僧というのはWikipediaによると、頭に笠をかぶり、丸盆を持ち、その上に紅葉の型を押した豆腐を乗せている妖怪です。
特別な能力は何も持たず、悪さをすることもなく、お人好しで気弱な性格、ほかの妖怪たちにいじめられることもあるという憎めないキャラクター。
いろいろなバリエーションがあるようですが、一例をあげるとこのようなイメージ像です。
(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%86%E8%85%90%E5%B0%8F%E5%83%A7)
ちょっと複雑な姿ですが、どのようにお菓子で表現するか?
最初は全体像を描くことにこだわり、簡略化して木型で彫る案やマジパン細工のように煉切でかたどる方法なども考えましたが、煩雑さが拭えません。
そんな中、同じフォロワーさんから、「留守絵」という日本画の手法を取り入れてもいいのでは、というアドバイスをいただきました。
これは、本来人物が描かれるはずなのに、それをあえて描かず、その人物に付属するものを描くことで、その人物を想像させるという方法です。
豆腐小僧の場合で言えば、「お盆にのせた紅葉豆腐」を描くことで、わかる人が見ればこの妖怪のことが連想されるはず!
というわけで、豆腐に紅葉をあしらったシンプルな意匠にすることに決定しました。
まずは、豆腐作りから。白い四角い豆腐を何の素材で描くか?
薯蕷製
浮島製
煉切製
羊羹製
淡雪羹製
などの候補が挙がりました。
生地がスポンジ状の薯蕷や浮島では豆腐ならではの滑らかな質感が表現できません。
煉切では瑞々しい光沢感が出せません。
羊羹の場合は硬質で、お豆腐ならではのフルフル感が表しにくい。
ということで最終的に、淡雪羹を採用することにしました。
朱色に染めた煉切をカエデの型に抜き、直方体に切った淡雪羹に添えるという方向で進めることにしました。
オリジナルデザインのお菓子の制作はいつも横浜・野毛の御菓子司「もみぢ」さんにお願いしています。
今回もその予定でしたが、このお菓子の根幹を成す淡雪羹の部分に、今までにないこだわりを込めたいと思いました。
そこで、淡雪羹を一番の看板商品にしているお店を探し出し、それを素材として使うことにしました。
ネットでいろいろ検索した結果、山口県下関市にある「松琴堂(しょうきんどう)」さんの「阿わ雪」がベストと判断し、取り寄せました。
雪輪文様や雪の結晶をあしらった素敵な包装紙が期待感を高めてくれます。
江戸末期の慶応年間に創業した150年以上続く老舗で、現在の店主で7代目、一子相伝で守り継がれてきた文句なしの名品です。
あの伊藤博文公が愛したお菓子でもあり、「阿わ雪」という銘も彼自身による命名だといいますから、これ以上の淡雪羹はないと思います。
もみぢさんには大変恐縮ですが、紅葉の部分のみを煉切で作っていただくことにし、合体させることにしました。
行きつけのお店なので、こんな要望にも気持ちよくこたえてくれるのが助かります。
さっそく、紅葉と淡雪羹を合わせてみました。
まずは、上面に乗せた場合。
側面に付けた場合。
豆腐小僧を描いた絵はたくさんありますが、紅葉は側面に描かれているものが多いのと、側面の方が写真写りもよいのでこちらを採用しました。
今回のお菓子のもう一つのポイントは「お盆」です。豆腐は「丸盆」に乗せられているということなので、菓子皿も丸盆に見えるものを合わせることにしました。
丸い小皿、醤油皿、薬味皿、コースターなど、家中にある丸盆に見立てられそうなものをいろいろ合わせてみました。
そして、最終的にこちらを完成品としました。
「豆腐小僧(とうふこぞう)」淡雪羹製:松琴堂/もみぢ/上生菓子図鑑
しっとりしているのに軽やかで、適度な歯ごたえがあるのに消え入るようにとけてゆく。
確かにその存在を実感していたはずなのに、それが幻のようにさらりと消滅してしまう淡雪羹は、まさに妖怪のような、非現実的な世界に通じる趣があると思います。