「湧水(わきみず)」鹿の子製:一炉庵
求肥を芯にして小豆こし餡をまるめ、その周りに大納言を付け鹿の子にします。上部をくぼませ、底に白餡を敷き、その上にブルーに染めた錦玉を流し込み、緑色に染めた羊羹製の青楓を添えたお菓子です。
緑濃い樹々の下を縫うように流れる清流、轟々と水音をたてる滝、こんこんと冷水の湧き上がる清水、暗がりに閑としてたたえられた深淵の水など、水の近くに佇むだけで涼しさが訪れますね。
夏場の茶会の主役は、やはり水の景色をスケッチした主菓子でしょう。
一言で「水」といっても、その表情は多彩です。やわらかい穏やかな水紋から、少し動きを感じさせる流水、風に打ち立てられたさざ波まで、実に様々な表情がありますね。
また、水の色も、澄み切った無色透明から、青瑪瑙(あおめのう)を溶かしたような秘湖の深いブルーに至るまで、様々な色合いがあります。
このお菓子は、山の奥深くで、人知れずこんこんと清水を湧き出している泉を表しているようにみえます。