「日車(ひぐるま)」月餅製:鶴屋八幡
黄色に染めたあんを白い月餅生地で巻き包み、輪切りにします。さらに、中央に小豆粒を数粒立てるように配しています。今年の新作だそうです。
一般に、干菓子は写実的、主菓子は抽象的なものが多いといわれています。
その主菓子も、関東では形がとても具体的、写実的なものが多いのに対して、京菓子は抽象的、隠喩的な表現が多い傾向にあるようです。
今日の上生菓子も、まるで現代アートのような抽象的な表現で、菓銘をみるまでは、このお菓子が何を表現しているのかまったくわかりませんでした。
京菓子の特徴は、例えば、「桜」のお菓子を作るときに、直接その姿をそのまま表現することはせず、桜を連想させる何か他の物に見立てたり、日本の歴史や、古典などを引用して創作します。
そのお菓子をみて、どのように解釈するかは、食べる人の発想力にまかされているのです。 この自由さ、奥深さこそ、和菓子ならではの魅力だと思います。
さて、「日車(ひぐるま)」とは、ヒマワリの別稱で、これ以外にも、ヒマワリにはたくさんの和名があります。
一番一般的なのが、「向日葵(ひまわり)」ですね。その他にも「日回り(ひまわり)」「日輪草(にちりんそう)」「照日葵(しょうじつき)」などとも呼ばれ、どの名前にも「日」が付いているように、太陽に由来していることがわかります。
ヒマワリの姿をイメージすると、鮮やかな黄色、まるい大輪の花、花の中央にある黒っぽい粒々の集合体などが浮かびます。
これらの特徴だけを抜き出して、シンプルに表現したのがこのお菓子です。つまり、黄色い花色を黄あんで、まるい花の形を、車輪のように囲んだ月餅生地で、花の中央の黒い粒々を小豆粒で表現しているのでしょう。
さらに、少し淡い黄色はやや勢力を弱めた晩夏の太陽をも表しているのかもしれませんし、銀色の輪に光って見える月餅生地は、まだまだ強烈な残暑の日射しをも写しているのかもしれません。また、小豆粒はヒマワリの種にも見えてきますし、どんどんイメージが膨らんでいきます。
職人さんが丹精込めて創り上げた作品を、見て、食べて、鑑賞したお客さんが、そのお菓子に込められた物語や精神をどこまで読み取って理解してくれるか、まさに両者の駆け引きが楽しめるのが上生菓子の世界ですね。