「かがりび(篝火)」とは、屋外で照明用に燃やす火のことです。
古代の日本で灯りといえば、この篝火や携帯用の松明(たいまつ)しかありませんでした。
今では神社の祭儀や特殊な漁猟など、ごく限られた場面でしか目にすることができなくなりましたね。
そんな希少な風物ですが、和菓子の世界ではお菓子の主題として、今なお大切に守り継がれています。
「篝火(かがりび)」葛製:両口屋是清
紅色に染めた吉野葛で小豆こし餡を包み、茶巾絞り仕立てにし、篝火を表現したお菓子です。 散らした黄色いみじん粉は、はじける火の粉のようです。
絞りによってできたひだ模様が、メラメラと燃え立つ炎に見えてくるのは、さすが職人さんの技の賜物ですね。
ひとつひとつ手作りのため、炎の表情がお菓子ごとにすべて異なっているのも趣きがあります。
さて、「篝火」と言ってまず思い浮かべるのが、『源氏物語』の「篝火の巻」です。
篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬ焔ほのほなりけれ
(篝火とともに立ち上る恋の煙は
永遠に消えることのないわたしの思いなのです)
源氏が玉鬘に詠んだ歌ですが、恋する熱い思いを篝火にたとえるとは、さすが愛の遍歴者ならではの感性。
それに対する玉鬘の返歌がこれまた巧みなこと。
行方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば
(果てしない空に消して下さいませ
篝火とともに立ち上る煙とおっしゃるならば)
この巻では、「初風」や「萩」などが描かれており、季節は初秋ということになるので、秋の篝火のお菓子のエピソードにするとよいでしょうね。
源氏物語図 篝火(巻27)
(出典:http://bunka.nii.ac.jp/heritages/heritagebig/101359/0/1)
一方、春の篝火といえば、夜桜の美しさを引き立たせるために、花の下で焚く「花篝(はなかがり)」があります。
静寂の中でパチパチとはぜる薪の音、情熱的に舞い上がる火の粉、時折漂う煙の香り。
ゆらめく炎に照らされ、浮かび上がる桜の姿は、幽玄そのもの。
京都円山公園の夜桜
また、今の季節で「篝火」というと、鵜飼の時に焚く「鵜篝(うかがり)」もはずせませんよね。
鵜飼とは、飼いならした鵜を使って鮎を獲る漁のことです。
烏帽子に腰蓑をまとった鵜遣が舳先に篝火を焚き、舟を出します。鵜匠と呼ばれる漁師が鵜をみごとに操って鮎を獲り、鵜が呑んだ鮎は鵜縄を引いて吐かせます。
川面に映る篝火の煌めきは、なんとも幻想的で、少年時代の 遠い夏の記憶を思い起こさせてくれます。
長良川の鵜飼
篝火のお菓子から、いろいろなイマジネーションが膨らむのも、和菓子ならではの醍醐味ですね。
<参考サイト>
http://genji.choice8989.info/main/kagaribi.html
http://www2.pref.iwate.jp/~hp2088/park/kikaku/51st_akari_danbou.html
http://www.genji-monogatari.net/html/Genji/combined27.1.html