「ほたる」煉切製:秋色庵大坂家
ホタルは岩や老木に生えた苔に産卵します。
孵化(ふか)した後は、水中で生活しながら巻貝の一種であるカワニナをエサに育ちます。
成長した幼虫は岸に上がり、土の中でサナギから成虫になります。
羽化して成虫になると、地上に出てきて、草陰にかくれながら生活し、夜になると草木の葉の上で、弱い光を発して求愛行動をおこないます。
成虫になると口が退化して水しか飲めなくなり、草の露をなめる程度で餌は食べず、二週間ほどで一生を終えます。
このようなホタルの一生に欠かせない環境が、このお菓子の中にすべて描きこまれています。
小豆色と白にぼかし染めた煉切で餡を包み円の一部が少し欠けた形に成形し、表面に千筋をつけます。
下面には、流れがゆるやかなきれいな清流を配し、緑色に染めた部分は、苔生した岩肌や水辺に生い茂る草叢(くさむら)を写しています。
焼印で描かれた三つの円弧と、その上に乗った水色の粒は、露を結んだ草や、水分が多く湿り気のあるやわらかい土を表しているようです。
上面の夜の静寂(しじま)の空間には、黒胡麻で表したホタルの成虫とそれが発する光が描かれています。
まるで絵本の挿絵のような抒情あふれる世界が、小さなお菓子の中に凝縮されていますね。