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「ちもと」さん

 

明治〜大正時代に活躍した和菓子の名人「千本三冬(ちもとさんとう)」氏の流れを受け継ぐ「ちもと」さんを紹介します。 

 

「ちもと」という同じ名前の和菓子屋さんは現在、東京都の目黒区、千葉県の市川市、神奈川県の箱根町の三か所にあります。

 

これらは、本店支店の関係ではなく、いずれも、のれん分けされ、それぞれが独立した和菓子屋さんです。 

 

本家本元にあたるのは「ちもと総本店」さんで、1900年に荒川区日暮里で千本三冬氏が創業しました。その後、銀座や新宿などに支店を出していましたが、戦後、支店のあった軽井沢に本拠地を移しました。 

 

今でも軽井沢銀座に「ちもと総本店」さんはあります。昨年、このちもと総本店の支店が杉並区阿佐ヶ谷に出店しました。

 

すでに閉店してしまっていますが、かつては鎌倉に「ちもとや」さん、渋谷区初台にも「ちもと」さんがあったそうなので、創業者千本さんはたくさんの職人さんを育て上げたということになりますね。 

 

今日紹介するのは、東京都目黒区八雲にある「ちもと」さんです。 

 

 

緑豊かな植え込みや井戸、石灯籠などが配置された入口の様子からもご主人の洗練された感性が伺えます。

 

東急東横線の都立大学駅から徒歩数分、交通量の多い目黒通り沿いに面していますが、このお店の佇まいは別世界のようですね。 

 

こちらの看板商品が「八雲もち(やくももち)」です。お店のある地名を冠しています。 

 

 

竹皮でお餅を包み、三角に折りたたみ、菓銘を書いた和紙の短冊で結んだ包装が粋ですね。

 

 

淡雪(卵白を泡立てて寒天で固めたもの)を求肥に混ぜた生地が独特です。マシュマロのようなぷにゅふわ感にお餅ならではのもちもち感がほんのり加わった絶妙な食感がクセになります。 

 

生地の中に砕いたカシューナッツが入っており、風味豊かな黒砂糖の甘さと相まって絶妙な味わいを 醸し出しています。 

 

世の中、餅菓子は無数にありますが、その中でも私が一番好きなものがこの「八雲もち」です! 

 

 

さてさて、本題の上生菓子ですが、5種類あり、全種類購入しました。 

 

「鞍馬田楽(くらまでんがく)」軽羹製 

京都洛北の鞍馬(くらま)山名物として有名な「木の芽田楽」を写したお菓子です。 

 

この料理は、木の芽(山椒の若葉)をすり混ぜた味噌を豆腐に塗って焼いたもので、大和芋入りの真っ白な軽羹で豆腐を、緑色に染めた味噌餡で山椒味噌を表現しています。 

 

「花あやめ(はなあやめ)」煉切製 

黄身餡を紫色に染めた煉切で囲うように包み、茶巾絞り仕立てにし、あやめの花を写したお菓子です。

 

「深山つつじ(みやまつつじ)」きんとん製 

緑色と紅色の二色に染め分けたそぼろを小豆つぶ餡のまわりに植えつけ、つつじを写したお菓子です。

 

「初瀬寺(はつせでら)」煉切製 

薄紅色に染めた煉切で小豆こし餡を包み牡丹の花を写した木型で押し抜いたお菓子です。初瀬寺は牡丹で名高い奈良県の長谷寺の古名です。 

 

「藤浪(ふじなみ)」薯蕷製 

小豆こし餡入りの薯蕷饅頭に藤の焼印を押したお菓子です。「藤浪(藤波)」とは藤の花が風に揺れる様子をいいます。

 

「シンプル」がここのご主人のモットーだけあり、上生菓子もまさに簡素そのもの。派手さとは無縁ですが、内側からにじみ出てくるような趣に惹かれますね。 

 

ひとひねりある菓銘もお菓子の品格を高めています。 

 

機会があれば、軽井沢の「ちもと総本店」さんをはじめ、その他の「ちもと」さんも巡って、食べ比べをしてみたいですね。