今日ご紹介する「鈴木家」さんは、二年ほど前のとある日、散歩の途中で偶然見つけたお店です。
その昭和レトロな雰囲気は、故郷の古びた商店街にある小さな和菓子屋さんを彷彿とさせ、懐かしさにつられ、時折足を運んでいます。
看板をよく見ると「寿々㐂家」となっています。「㐂」は「喜」の異体字で、「寿々㐂家」と書いて「すずきや」と読みます。つまり、「鈴木家」さんの漢字を、縁起をかついで、同じ読みでおめでたい「寿」や「喜(㐂)」の漢字にあてはめた当て字なのです。
このお店があるのは、横浜の平沼商店街です。横浜駅からは徒歩10分くらいで行ける場所ですが、巨大な商業施設が密集する駅周辺と比較するとすっかりさびれた感のある街です。
幕末に横浜港を開港するにあたり、東海道と横浜の間を結ぶ連絡路として幕府によって設けられたのが横浜道で、その道沿いに商店が集まってできたのが平沼商店街なのです。
当時は相当賑わっていたと思いますが、今ではその面影はなく、逆に人混みの苦手な私にとっては、のんびり散策しながら美味しい和菓子を買えるお気に入りの散歩ルートになっています。
さてと、横浜の銘菓と言えばまずこのお菓子ですね。
「港の丘(みなとのおか)」
横浜市に住むいろいろな分野の職人さんたちが集まってできた横浜市技能職団体連絡協議会というのがあり、その結成10周年の年(昭和53年)に記念として「横浜の代表銘菓を作ろう」ということになり、横浜市菓子協議会が開発したお菓子です。
このお菓子、横浜市内のあちこちの和菓子屋さんで見かけるので、てっきり菓子協議会が一括して製造し、各和菓子店に卸して販売していると思っていたのですが、実は違うのです。
同じ焼き型を使い同じレシピに従って作り、同じデザインのパッケージに入れて販売するのですが、製造はそれぞれの和菓子屋さんで行っているのです。
よって、レシピは同じでも、原材料の調達先が各和菓子店で異なるわけですから、見た目は同じように見えても、味は各店で微妙に異なるという面白いお菓子です。
原材料は、白餡、砂糖、小麦粉、鶏卵、栗、無塩バター、アーモンドプードル、ブランデー、ラム酒、香料などで、白餡ベースにはなっていますが、どちらかというと洋菓子寄りの味付けになっていますね。
口に含むとほろっとくずれる、しっとりとした食べ口が特徴で、栗がアクセントになったまろやかな香りの餡が絶品です。
40年近く作り続けられているロングセラー銘菓で、2008年には全国菓子大博覧会で名誉総裁賞を受賞し、同年に「神奈川の名産100選」にも選定されています。
少しわかりにくいですが、お菓子の表面には横浜市のロゴマークがデザインされていて、カタカナの「ハマ」を菱形に組み合わせたデザインになっています。
「水温む(みずぬるむ)」煉切製
水色に染めた煉切で小豆こし餡を包み、木型で水紋を押し、羊羹製の水鳥とうぐいす豆の蜜煮を配したお菓子です。
水温の上昇とともに活動を始めた水辺の生き物や、川面に映える岸辺の草花、時折現れては消える水面の渦からも春の喜びを感じられますね。
「宴(うたげ)」求肥製
白こし餡を求肥生地で包み、手技でひょうたんをかたどり、羊羹製の桜花を配したお菓子です。
お花見の宴に欠かせないお酒を、酒器のひょうたんで表した逸品です。
「つくし」煉切製
黄色と緑色にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、表面に千筋を付け、つくしの形を肉桂粉で押したお菓子です。
お菓子に図柄を付ける場合に、焼き印で描く場合と、焼かずに型だけ押す場合、さらにこのお菓子のように肉桂粉(桂皮末、シナモンの粉末)を利用して描く場合があります。
シナモンの豊かな香りは、匂い立つ春の感覚にまさにぴったりですね。
「桜(さくら)」煉切製
近隣の小学校とのコラボで生まれた上生菓子で、小学生のデザインによるものだそうです。
中に角切りの求肥餅が入っているのがサプライズですね。
地元の小学校とこのような交流のある地域密着型の和菓子屋さんは、私の中の理想形です。
日本が世界に誇る和菓子文化に、子供のころから触れる機会を提供してくれる活動には大いに賛同しますね。