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「いづみや」さん

 

今年一年かけて、追っかけをしようと決めているマイブームのお店「いづみや」さんに、今日も行ってきました。 

 

本店があるのは神奈川県横須賀市衣笠で、最寄りの駅はJR横須賀線の衣笠駅です。 

 

 

私の家からは電車を乗り継いで、往復2時間以上かかりますが、素敵な和菓子に出会えるのならまったく苦にならない距離です。 

 

衣笠といえば、平安時代以降名を馳せた武家三浦氏の本拠地である衣笠城があった場所として知られています。

 

現在はわずかな遺構を残すのみとなっていますが、衣笠城址と谷をひとつ隔てた隣の衣笠山公園は桜の名所として知られ、日本さくら名所100選のひとつにも選ばれています。

 

 

数年前に桜祭りでここを訪れた時の写真です。 

 

 

さてさて、本題のいづみやさんですが、駅前から続く衣笠商店街の中にあります。 

 

地方都市のアーケード街はさびれてしまいシャッター街と化したところも多いと聞きますが、ここの商店街は活気があります。 

 

 

三代目店主、三堀純一(みつぼりじゅんいち)氏はテレビ東京の人気番組「TVチャンピオン」の和・洋スィーツ職人頂上決定戦でみごと優勝し、一躍有名になりました。 

 

和菓子の材料を使って本物そっくりにつくり上げる工芸菓子という分野でもその才能を発揮し、メディアでもしばしば取り上げられています。

 

さらに、最近では「菓道家一菓流家元」と称し、インスタグラム上で毎日一品ずつ新作の上生菓子を発表し続けていて、これがまた素晴らしく、どれもお菓子とは思えない斬新で精巧な芸術作品ばかりで、世界中で話題になっています。 

 

https://www.instagram.com/junichi_mitsubori/ 

 

また、自ら考案した特殊な道具を使い、さじ切りならぬ「針切り」という手法を編み出したことでも知られ、世界各地でワークショップを開き、この技法を披露されています。

 

写真(出典:http://www.imgrum.org/user/kazushitanaka/2288656684/1299926436320454195_2288656684)のようにお箸の先が針になっている道具で「針切り箸」という名前が付いていています。

 

 

三堀氏は「茶道」のように、おもてなしの精神を持ってお菓子を創作し振舞う、「菓道」を提唱されています。 

 

これは、「茶道のお点前」のように、「実際に目の前で作った和菓子をその場でいただく」という流儀になります。

 

つまり、店頭販売はしないということで、三堀氏自身が作ったお菓子を食べるためには、ケータリング形式によってのみ可能ということになります。 

 

よって、店頭で販売されている上生菓子は、三堀氏のお弟子さんである職人さんが三堀氏監修指導の下に作っているものです。 

 

そうこうしているうちに、お店に到着しました。

 

 

お店に入ってすぐ右手にガラス張りの小スペースがあり、運が良ければここで職人さんが上生菓子を作っているところを間近から見学できます。

 

さすが、煉切細工に力を入れているだけあって、常時10種類前後もの上生菓子が用意されています。 

 

 

今回はその中から、今の時季にぴったりな四趣を選びました。

 

 

「春の音(はるのね)」求肥製 

 

白こし餡を包んだ求肥餅の中央をくぼませ、そこに桜花の塩漬けを入れ、錦玉を流し固めたお菓子です。 

 

春の音という素敵な銘がイマジネーションを刺激してくれますね。 

 

融けた雪が崩れる音、雪解け水が沢を流れる音、春の鳥たちのさえずり、春風がやさしく通り過ぎる音、樹々がポツポツと芽吹く音、花のつぼみがパッパッと開く音… 

 

 

「桜(さくら)」煉切製 

 

ピンクと白にぼかし染めた煉切で餡を包み、手技にて桜花をかたどったお菓子です。中の餡は桜葉の塩漬けを刻み込んだ小豆こし餡です。

 

手のひらとへらで巧みに形をつくり、さらに指の腹で軽く押し、溝をつけると可憐な桜の花びらができ上がります。花芯には、黄色に染めたそぼろを置いています。 

 

はんなりした色合いのこの菓子は、古くから伝わる古典的な桜の意匠ですね。

 

 

「春うらら(はるうらら)」外郎製 

 

黄色と白にぼかし染めた外郎生地で白こし餡を包み、茶巾絞り仕立てにしたお菓子です。 

 

野辺に萌え出た草花が精一杯春の訪れを知らせてくれている様子を、淡い色とシンプルな造形で見事に表現していますね。 

 

「うらら」とは「麗か(うららか)」と同じ意味で、海も野山もすべてのものが春の光に包まれ、明るくのどかな様子をいいます。 

 

うららは、陽気な気候だけでなく、心にわだかまりがなく、おっとりしている心のうちを表す言葉でもあり、うららそのものの響きとも相まって、実にほんわかとして、癒される素敵な菓銘ですね。 

 

 

「早わらび(さわらび)」煉切製 

 

緑色に染めた煉切で抹茶餡を包み、上で述べた「針切り」技法を使ってわらびの姿を精巧に刻み込んだお菓子です。 

 

 

 

 

わらびは、あく抜きし、煮物、あえ物、天ぷら、卵とじ、塩漬けなど、いろいろな食べ方を楽しめるすぐれもの。まさに早春の山からの贈り物ですね。

 

そんなわらびを採りに行くわらび狩りは、もちろん食べる楽しみもあるのですが、それ以上に、わらびを探しながら春の陽をいっぱいに浴び、自然の息吹を身近に感じる楽しみも大きいのではないでしょうか。