この間は浅草・蔵前の「榮久堂」さんを初めて訪問しましたが、今年は、隠れた名店をいろいろ発掘したいと思っています。
というわけで、新規開拓シリーズ第二弾として、今回、目指す場所は東京都江東区亀戸です。
「亀戸」と書いて「かめいど」と読みますが、東京の東側に位置していて、いわゆる下町エリアに入る街ですね。
私と亀戸の接点は、実は、はるか36年前にありました。
大学受験に失敗し、心機一転、瀬戸の小島からいきなり東京の予備校に入って猛勉強を始めた頃のことでした。
全寮制の予備校で、寮と予備校の往復に毎日利用していた総武線(当時はまだ国鉄でした)の途中駅に亀戸がありました。
ド田舎から初めて大都会に越してきたものですから、何から何まで驚きの連続。
10分おきに次々とやって来る電車、網の目のように走る地下鉄、24時間やっているコンビニやファミレス、回る寿司屋など、カルチャーショックで最初は勉強に身が入らなかったですね。
亀戸といえば、受験の神様、菅原道真公を祀る有名な亀戸天神があると聞いて、時々途中下車をしてはお参りに行ったものです。
また、毎朝、通学の時に同じ車両で見かけ、いつも亀戸で降りる女子高生にひと目惚れした学友が、恋文を渡し振られたのもこの地でした。
そんな青春時代の思い出を懐かしんでいるうちに、亀戸駅に到着。
目指すのは、駅から徒歩5分の「菓匠 松月(かしょう しょうげつ)」さんです。
ホームページ上で上生菓子の写真を掲載していて、毎月きちんと更新され、東京の下町にあるという条件でヒットしたのがこのお店でした。
商店街の中でこじんまりとお店を構える松月さんですが、狭いながらもすっきりとレイアウトされた清潔感のある売場で、そのすぐ後ろがガラス張りになっていて、工房が見える造りになっています。
工房の一番手前の、お客さんからよく見える場所で、ご主人がちょうどどら焼きの皮を焼いていて、さらさらの種をお玉ですくい平鍋の上にサッとたらすだけで、みるみる均等な円形にまとまる様子にしばし見とれてしまいました。
お店によっては一子相伝、絶対に製法は公開しないというところもある中、このようなオープンなお店は、作り手が見える安心感もありますし、何よりすぐ目の前で美味しそうに出来上がるお菓子を見ると、購買意欲をかき立てられますよね。
さて、本題の上生菓子ですが、まずは、松月さんイチオシの逸品から。
「亀戸大根饅頭(かめいどだいこんまんじゅう)」薯蕷製:松月
薯蕷生地で小豆こし餡を包み楔形にかたどり、蒸し上げます。さらに、筋状の焼印を押し、緑の長めのそぼろで描いた葉の茎を添え、亀戸大根を写したお菓子です。
つくね芋の香り豊かな生地と、心地よい口どけの自家製餡の相性が抜群によかったですね。
亀戸大根は、江戸中期から明治時代にかけて、この周辺で盛んにつくられていた大根のことです。
早春に収穫されるこの大根は、当時、新鮮な野菜の少ない春先の貴重な青物として、根と葉を共に浅漬けにしたものが、江戸っ子の間で大人気だったそうです。
(出典:http://blogs.yahoo.co.jp/tomo_16nen/57069565.html)
その後、宅地化が進んだことから、産地は徐々に周辺に移り、やがて収穫量も減ってしまい、現在では「幻の大根」とも呼ばれているそうです。
この他に、3種類の上生菓子を購入しましたが、訪問したのは2月でしたので、菓題に冬の風物が含まれています。
「寒椿(かんつばき)」煉切製:松月
ピンクと白にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、茶巾絞り仕立てにて形を整え、黄色い筒状の煉切製のしべと緑の羊羹製の葉を配したお菓子です。
定番の意匠ですが、さりげない美しさに、心惹かれますね。
「うぐいす餅(うぐいすもち)」羽二重餅製:松月
小豆こし餡を羽二重餅で包み丸め、うぐいすきな粉をまぶしたお菓子です。
このお餅は両端をつまみ、うぐいすの形に似せるのが一般的ですが、松月さんのはまんまるのままなのが特徴です。萌黄の色鮮やかなきな粉がいかにも春らしい。
「水仙(すいせん)」煉切製:松月
先日の水仙の人気投票ですでに発表済みのお菓子です。緑と白にぼかし染めた煉切で小豆こし餡を包み、千筋を付け、へらで葉の型を押し、煉切製の水仙花を添えたお菓子です。
この水仙の真っすぐ上に伸びる葉を見ると、夢に向かって、がむしゃらに頑張った浪人生活のあの忘れえぬ一年間が、しみじみと思い出されましたね。
松月さんは平成4年創業の比較的新しい和菓子屋さんですが、いま一番脂の乗り切った勢いを感じる良店でした。
次回は桜の季節にまたぜひ訪れてみたいですね。