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「もみぢ」さん

 

横浜と言えば、皆さんどんな印象をお持ちですか? 

 

異国情緒あふれる港街のイメージでしょうか。洗練されたみなとみらいやセレブな元町・山手、活気あふれる中華街などを思い浮かべる方も多いと思います。 

 

 

そんな横浜の顔ともいえる場所のすぐ近くにあって、イメージが180度異なる野毛(のげ)という街があります。 

 

みなとみらい地区の玄関口になっているJR桜木町駅をはんさんで、みなとみらいと反対側に広がるエリアです。

 

ここは600店もの飲食店が軒を連ねる横浜屈指の飲み屋街になっていて、場外馬券売場や風俗街などが近いこともあり、飲んだくれのおやじが集う独特な雰囲気をかもしだしているのです。 

 

 

そんなディープな歓楽街の中に店を構えているのが、「もみぢ」さんです。 

 

最初に断っておきますが、屋号は「もみ」ではなく、旧仮名づかいの「もみ」です。 

 

飲食店の雑多な看板が林立する中に突如、昭和の風格ただよう古い店構えが目に飛び込んできてびっくりします。 

 

 

わっ、こんなところに和菓子屋さんが !って感じです。 

 

もみぢさんは、1946(昭和21)年にまず和風喫茶として営業を始め、その後和菓子屋さんに転業し、現在に至っています。 

 

今のご主人は2代目ですが、先代の息子さんではなく、元職人として働いたのち、同店を引き継いだそうです。

 

見た感じ60代くらいの白髪の上品なおじさまで、本店近くのショッピングセンター内に支店があってよくそこの店番もされています。 

 

いつもにこやかな方で、私の無理なお願いもよく聞いて下さり、独自のデザインやオリジナル木型による上生菓子作りをも気持ちよく引き受けてやってくれます。 

 

ここの看板商品は何といっても、神奈川県指定銘菓になっている「大銅鑼焼(おおどらやき)」ですね。 曜日限定で横浜の百貨店でも販売しています。 

 

その名前の通り、ほんとうに大きいです。ふつうのどら焼きの1.5倍、直径にして約12㎝もあります。

 

 

丹波の小豆を使った黒餡と、大福豆を使用した白餡の2種類あります。この金色の包装が私の大好きな黒餡です。(ちなみに、白餡は銀色の包装です) 

 

 

濃い焼き色の生地の中央にドォ〜ンと焼印が押されています。 

 

もっちり、ふんわりの生地は蜂蜜入りで、きめ細かくしっとりしています。 

 

小豆つぶ餡がこれまた絶品で、粒はつぶれ過ぎず、粒あんならではの食感をしっかり残しつつも、後口の良い理想的な仕上がりです。 

 

 

月に2回くらいのペースで食べているお気に入りのどら焼きですね。 

 

 

さてさて、いよいよ本題の上生菓子に移りますが、実は、私がこの「上生菓子図鑑」を始めるきっかけとなった、いわば原点というべきお菓子が、ここもみぢさんにあるのです。

 

「紫陽花(あじさい)」錦玉製:もみぢ 

 

私が最初にとりこになったのが、宝石のような錦玉を餡のまわりに飾り付けた、もみぢさんのこの紫陽花のお菓子でした。 

 

透明なはずの錦玉が、中の餡の色を映して、角度によって、また、光の加減によって、いろいろな色に変化して見える、まさに「七変化」の姿にすっかり魅了されてしまいました。 

 

こんなにも美しい芸術作品なのに、生菓子であるがゆえに数日で食べられてしまい、消え去ってしまうのが忍びなく、せめて写真に残しておこうと思ったのがはじまりでした。 

 

そんな特に思い入れのある和菓子屋さんなので、ほぼ毎週通い詰めています。 

 

 

今日も素敵な逸品を見つけました! 

 

「桜(さくら)」煉切製:もみぢ 

ピンク色に染めた煉切で小豆こし餡を包み、ひとひらの桜の花びらを手技でかたどっています。 

 

このお菓子、立体的な構造になっていて、見る角度によって表情が様々に変化します。 

 

真上から見ると、一枚の薄い花びらのようにみえますが、横から見ると、厚みがあって、ほころびかけた蕾のようにも見えます。 

 

 

さらにもう少し角度を変えると、花びらが八重桜のように重なって見えます。

 

 

また、別の角度でみると、花びらが風に翻って反るようにたわんで見えます。 

 

 

ひとつのお菓子で、蕾から散るまでを表現しているのかもしれませんね。

 

上生菓子の世界って本当に興味が尽きないです。

 

小豆色のもみじが散りばめられた、もみぢさんの美しい包装紙 もお気に入りです。