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豊島屋さんの梅の上生菓子

 

私は、早春の鎌倉が好きです。

お正月の初詣、春の桜、初夏の紫陽花、夏の海水浴、秋の紅葉と、年中観光客が絶えない鎌倉ですが、人混みの苦手な私にとって、静かにゆっくり鎌倉を楽しめるのが2月〜3月初旬にかけての時期なのです。

 

南側は海に向かって開け、背部は山に取り囲まれている鎌倉は冬でも比較的温暖で、まだまだ寒さの残るこの時期でもいろいろな花が楽しめます。

 

鶴岡八幡宮の寒牡丹をはじめ、瑞泉寺の水仙、浄智寺の蝋梅、荏柄天神の紅梅、東慶寺の白梅、宝戒寺の椿など、桜のような華やかさはないですが、静かに古都を味わうのに格好の場所があるのです。

 

 

鎌倉に行ったときに、上生菓子を買いに必ず立ち寄るのが、鳩サブレー(サブレではなくサブレーなのです!)で有名な豊島屋さんです。

 

鳩サブレーがあまりにも有名過ぎて、ここの上生菓子が語られることは少ないのですが、毎月きっちり6種類、毎年意匠を変えて丁寧に作られています。 

 

ここの上生菓子の特徴をひとことでいうと「シンプルな美しさ」といえるでしょうね。 

 

武家⽂化を歴史的背景にもつ鎌倉らしい飾り気なく、誠実な表現に心惹かれるものがあります。 

 

今日はそんな豊島屋さんの梅の上生菓子を七趣お届けします。 

 

「梅衣(うめごろも)」羊羹製:豊島屋

梅の姿を彫り上げた鎌倉彫のような意匠が素敵です。「梅衣」は、梅の枝を手折ると衣に梅の香りが移ることに由来した風雅な銘です。 

 

「未開紅(みかいこう)」こなし製:豊島屋 

こなしの紅色を外に、白を内にして重ねた皮で、中の小豆こし餡を包むように四方を上にあげ、花しんとして頂点に黄色を置いて仕上げています。未開紅は大輪の紅梅の異名です。 

 

「雪中梅(せっちゅうばい)」薯蕷製:豊島屋 

小豆こし餡入りの薯蕷饅頭に紅羊羹をグラス絞りにて粒状に三つずつ添えたお菓子です。 

 

「咲分け(さきわけ)」きんとん製:豊島屋 

紅白に染めて裏ごししたそぼろを、小豆つぶ餡を芯にしてそれぞれ左右に植えつけ、紅梅白梅の美しさをかたどったお菓子です。 

 

「梅の香(うめのか)」こなし製:豊島屋 

黄色に染めたこなしで白小豆入り白餡を包み、木型にて梅花をかたどったお菓子です。

 

「雪中梅(せっちゅうばい)」しぐれ・羊羹製:豊島屋

紅色に染めた羊羹をそぼろではさみ、こなし製の紅梅を添えたお菓子です。紅白のシンプルな意匠が、雪の中でも凛々しく咲き匂う梅を思わせます。 

 

「初東風(はつこち)」外郎製:豊島屋 

紅白にぼかし染めた外郎生地で白こし餡を包み梅花をかたどり、黄色いそぼろ製のしべを添えたお菓子です。東風という響きに春の訪れを感じさせてくれますね。