昭和7年創業の田園調布を代表する和菓子店「田園調布あけぼの」さんを紹介します。
東急東横線の田園調布駅のすぐ前にあり、通勤途中によく途中下車して上生菓子を買いに行くお店です。
この店のこだわりは、和菓子の要である餡をすべて自家製で作っていること。
餡の中でも、特にこし餡は、つぶす、漉す、さらすなど工程が多く大変手間がかかるので、製餡業者のものを仕入れて使っている店も多いのですが、それでは本当に美味しいものはできません。
上質なこしあんは上品な甘さと舌の上でさらりと溶ける口溶けのよさが特徴ですが、原材料、工程のどこを手抜きしてもこ の味は出せないので、本当に納得のいくものを作るなら自家製に限るのです。
田園調布あけぼのさんは、高価な丹波産の大納言小豆を使い、豆の煮炊きから、仕上げまで独自の方法で行っているそうで、特に5年前くらいから徐々に製法を変え、より美味しい餡になるよう試行錯誤をくりかえし、ようやく満足できる現在の形が完成したと感慨深げに語っておられました。
さて、私は屋号を聞くと、どのような由来でその名前になったのか、とても気になるところです。
屋号は店の大切な看板であり、創業者のいろいろな思い、主義主張が込められていると思うので、私は重視しています。
この店の屋号「あけぼの」の由来について、販売員の方に訪ねたら、わからないとのことで、メールにて問い合わせたところ、翌日には早速以下のような返事をいただきました。
「あけぼの」は、「曙」の空とか、春は「あけぼの」とかおめでたい意匠を思い浮かべますよね。あけぼのというネーミングは、ぼやっとし ているけれど何かおめでたいことが後ろにありそうな感じなんです。創業以来の当店銘菓「曙の鶴」についても、鶴の子が巣立って創業の空に羽ばたいていく様を表すとされています。(原文のまま)
確かに、「日本文化のあけぼの」とか言うように、「あけぼの」という言葉には、新しく事態が展開しようとする何か期待感、秘めた可能性のようなものを感じるいい名前ですね。
さて、そんな「あけぼの」さんの上生菓子の特徴は、奇抜さや衒い(てらい)のまったくない正統的な作品が多いです。裏返すと、個性に乏しいとも言えますが、末永く伝統を繋いでいくためには、正統派が一番なのかもしれません。
霜月の上生菓子4点をお届けします。
「木枯らし(こがらし)」求肥製
小豆つぶし餡の浮島で求肥餅を巻き、上に黄葉をひとひらのせています。
巻いた浮島の表面にできる不規則なひび割れが木枯らしの風情をよく表していますね。
「初霜(はつしも)」きんとん製
餡をしんにして、まず緑色に染めた餡のそぼろを植え付け、さらにきめの細かい枯色のそぼろを散らし、最後に霜に見立てた氷餅粉を散らしています。
霜の季節をきんとんで表現する場合に、全体として小豆のきんとんを使って枯れた色合いにするものが多い中、緑色主体の表現は新鮮です。
「菊(きく)」煉切製
こし餡をしんにして白色にぼかし染めた桃色の煉切で包み、菊の花の型で押したもの。花しんには黄色をさし、緑色の羊羹製の葉を添えています。
オーソドックスな表現です。
「さざんか」雪平製
雪に劣らぬほど白く咲く、山茶花の花を写したお菓子です。白餡を真っ白な雪平餅で包んでいるのでさらに白さが際立っています。照りのある葉は、緑色の羊羹製。
純白の山茶花は日本画から抜け出た美女のような美しさですね。