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ほの穂(山種美術館)

 

山種美術館に併設された「カフェ椿」で提供されているオリジナル和菓子を紹介するシリーズです。 

 

現在開催されている速水御舟(はやみぎょしゅう)展にちなんだ5種類の上生菓子のうち、いよいよ最後の一品となりました。 

 

御舟の最高傑作であり、重要文化財にも指定されている《炎舞(えんぶ)》が今日のお菓子のテーマです。

 

速水御舟《炎舞》(1925年) 

(出典:山種美術館HP) 

 

闇の中にメラメラと燃え上がる炎とそこに群がり舞う蛾(が)が幻想的な雰囲気を醸し出しています。 

 

1925年の夏、家族と共に滞在した軽井沢で、焚き火に群がる蛾を毎晩のように観察し、克明に写生したものをもとに制作された作品です。

 

背景の闇の色について、「もう一度描けといわれても、二度とは出せない色」と御舟本人が語ったとされる会心作です。

 

完成前の作品を室内に立てかけていたところ、外出先から帰ってきた家人が本物の火と思い込み、「火事だ」と叫んで大騒ぎになったというエピソードまであります。 

「ほの穂(ほのほ)」きんとん製:菊家 

橙色、紅色、黄色に染めたそぼろを黒糖入りの大島餡のまわりに植え付け、金箔を散らしたお菓子です。

 

さて、「カフェ椿」さんの「椿」は、速水御舟の《名樹散椿》(重要文化財)に由来します。 

 

そんなわけで、御舟作品の中でも最高傑作とされる《炎舞》を上生菓子で表現することはカフェ椿さんにとってはまさに避けては通れない課題でした。 

 

そして過去に何度も挑戦し、数多くの試作品を作るも納得のものができず、何度もボツになってきたいわくつきのテーマなのです。 

 

炎をきんとんで表現することは簡単に決まりましたが、一番の難題は絵の中の重要な要素「蛾」をどのように表現するかです。 

 

昆虫を食べ物で表現する場合は配慮が必要になります。そこで蛾の代わりに蝶の形で代用する試作品ができあがりました。 

 

《炎舞》試作品(出典:http://bluediary2.jugem.jp/?eid=3297) 

 

私はこの試作品、結構気に入っていますが、やはり、虫が苦手な人のために、具体的な昆虫の形は避け、最終的に金箔を散らすだけにして、お菓子で炎のみを表現することになったようです。 

 

では、蛾はどうなったかというと、それは実際にカフェでこのお菓子をいただいて初めて納得しました!

 

 

蝶(蛾)を描いた黒い台紙の上にお菓子をのせ、盛り付け全体として作品になるという仕掛けだったのですね。 

 

テイクアウトでお菓子だけを買って帰って観賞した時に、蛾が描かれていないことに疑問と不満を感じましたが、改めてカフェに足を運んでそこで味わうことによりスッキリ解消することができました♪