秋の七草シリーズも、いよいよ6回目まできました!いつも見ていただき、ありがとうございます。
今日のテーマは「藤袴(ふじばかま)」です。
かつては日本各地 の河原などに群生していた藤袴ですが、どんどん数を減らしてしまい、今では準絶滅危惧種に指定されているそうです。
和菓子の藤袴もこれまた、絶滅危惧に瀕している感じですね。
先日紹介した「葛の花」に負けず劣らず、「藤袴」を写したお菓子も滅多にお目にかかれません。
2年前には日本橋の名店「ときわ木」さんのものを紹介しましたが、昨年は適当なものを見つけ出すことができず、「そえ田」さんに特注しました。
「藤ばかま(ふじばかま)」黄身しぐれ製:ときわ木
「藤袴(ふじばかま)」外郎製:そえ田
ネット上で検索しても、三重県の「五十鈴茶屋」さんと、石川県の「森八」さんのものがわずかに見つかる程度で、今年もどうやら特注に頼らざるを得ないようです。
今回は、上生菓子の創作に関して、今、一番油が乗り切っていて、勢いのある「大倉山青柳」さんに依頼することにしました。
ここのご主人はチャレンジ精神が旺盛で、今回、初めて創作するテーマだということもあり、とても張り切って協力していただきました。
まずは、藤袴の写真を見てイメージを膨らませます。
つぼみは濃い赤紫色で鈴なりについています。
花が開くと、色合いが淡くなり、糸のような細い雌しべがたくさんのびてくるのが独特です。
群生するとこんな趣きのある景色になります。すらりと茎を伸ばした先に上品な小花をたくさんつけ、風に揺れる立ち姿は秋の野を彩る花として欠かせない趣きがありますね。
ご覧のように、つぼみから開花するまでダイナミックに変化するので、どの段階の姿を描くかによって表現方法が変わってきますね。
当初、つぼみの姿を煉切で写し取ろうかとも考えましたが、白ダチョウの羽毛のように伸びるしべがとても印象的で、その風情を是非とも描いてみたいと、ご主人はやる気満々です。
イメージは三枚目の群生している写真の雰囲気で、きんとん製で表現することにして、色合いやデザインはご主人に全面的におまかせすることにしました。
一週間後、試作品が出来上がったので是非見に来てくださいとの電話をいただき、できたてのほやほやを拝見しに伺いました。
お店に到着すると、上から紫色の布をかぶせたお盆を持ってご主人が登場し、明るいところで見た方がいいのでと、照明の近くへ導かれました。
「では、いよいよ発表しますよ!」と言って手品師のように布をサッとめくりました。
その瞬間、実に繊細なつくりの藤袴が登場し、私は思わず声を上げてしまいました。ご主人が自ら筆で書いた菓銘まで添えられていて、もう大感激!
色合いはどうですか?どこか手直しが必要なところはありますか?と、気遣っていただきましたが、想像以上の力作で、文句なしの一発OKでした。
「藤袴(ふじばかま)」きんとん製:大倉山青柳
大倉山青柳さんのこだわりは、ぼかし技法をフル活用した絶妙な配色です。
ご主人曰く、食用色素は、赤、ピンク、黄色、緑、青の5色が基本で、紫色はないので、赤と青を混ぜて作らなければならないそうです。
そのため、微妙な量の違いで色合いが変わってしまうので和菓子の色づけの中で紫色がとても難しいといいます。
この作品の紫色は自然なやさしい色合いになるように相当こだわって作られています。よくみると、緑の葉っぱの部分にもほのかに紫色が混ぜられています。
今回は、母親の誕生祝い用に10個オーダーしました。最近、すっかり味をしめて、なんだかんだと口実を設けては特注しちゃっています。
和菓子党で、紫色が大好きな母親は大喜びで、とてもよい記念になったと思います。
器に盛りつけると一面に広がる藤袴の群落を臨んでいるようで壮観ですね。
本物は絶滅に瀕しているので、せめてお菓子の藤袴だけでも長く守り繋いでいきたいです。