とらやさんは、桜にちなむ上生菓子だけでも約70種もの意匠があるそうです。
その菓銘も「初桜」「遠桜」「手鞠桜」「手折桜」「花筵(はなむしろ)」「嵐山」「奈良の都」「高間餅」・・・など、多くの種類があり、一つ一つに違った意味があります。
「初桜」のようにその年に初めて咲いた特別な桜を表現した意匠もあれば、「遠桜」のように遠くから桜を巨視的に眺めた情景を表したものがあります。
また、「花筵(はなむしろ)」や「花筏(はないかだ)」のように地面や水面に散り敷かれた用済みの桜の花びらを「むしろ」や「いかだ」に見立てて「新しい美」に昇華させたものもあります。
さらに、「手折桜(たおりざくら)」のように桜の枝を折って持ち帰りたいという気持ちに重点をおいて表現したものもあります。
その他、桜の名所として知られる「嵐山」や「吉野」といった地名を採用し、菓銘に桜の文字が入っていなくても、そこから桜を連想させるものなどもあります。
ひとつの主題に対して、これほどまでにデザインが豊富で深い意味を湛えたお菓子は、上生菓子をおいて他にはないでしょうね。
「奈良の都(ならのみやこ)」こなし製:とらや
紅色に染めたこなしで白こし餡を包み、木型で押し抜いたお菓子です。艶やかに匂い立つような八重桜一輪をかたどっています。花びらが幾重にも重なり咲く姿は、かつて都として栄えた奈良の華やかさを偲ばせます。 安政3年(1856年)に初めて創作されました。