私が好む和菓子店の理想形は、
(1)一店舗主義、つまり、チェーン展開していない、デパートなどにも出店していない、そこにわざわざ足を運ばなければ食べられない。できれば通販もやっていない。
(2)毎月季節の上生菓子を出している。
(3)地域密着型である。地元の人に愛され、支持されている。
(4)50年以上の歴史がある。つまりは、昔懐かしい昭和の香りが感じられる。
(5)時代の流れに迎合しない、かたくなに味を守り続けている。
このすべてに当てはまる店が東京の駿河台下にあります。
味、意匠ともに、私が気に入っている上生菓子専門店のひとつ「ささま」さんです。
「ささま」は正式には「さゝま」と書きます。
この二つ目の「さ」の代わりの「ゝ」は、ひらがな繰り返し記号というそうで、同じひらがなが続くときに使う省略記号。ちなみに同じ漢字が続く時によく使う「々」は漢字繰り返し記号といいます。
さて、ささまさんのホームページによると、お店の歴史は、 昭和4年(1929年)に笹間繁氏が神田小川町にササマパン店を開業したのが始まりということで、最初は意外にもパン屋さんだったそうです。
その後昭和6年頃より和菓子店を現在の場所に開店し、昭和9年にササマパン店を閉店し和菓子専門店となったということです。
現在は、茶道に精通する2代目、笹間芳彦氏が店を取り仕切っているだけあり、茶人の間では、お茶席用の上生菓子と干菓子といえば「ささま」さんといわれるほど評価が高いお店です。
月ごとに替わる上生菓子は、6〜8種類。どのお菓子もそのデザインの美しさ、繊細さには目を見張るものがあります。また、どのお菓子も抹茶に合うように、あっさりとした味わいに仕上げているのが特徴。
店主は、毎日仕事場からあがってくるお菓子を厳しく吟味し、少しでも質が落ちると決して店には出さないという姿勢を貫いています。
さて今回は、11月の上生菓子から4点を購入しました。
「初霜(はつしも)」煉切製
周りは小豆の練切で、中の餡も小豆の漉し餡。お馴染みの氷餅粉で霜を表現。 粗朶(そだ)の上に薄っすらと霜が降りた様を表しています。
粗朶とは、切り取った木の枝のことで、薪(まき)に用います。 私が子供の頃は、ご飯を炊くのも、お風呂を沸かすのも薪をくべて行っていたので、粗朶はいたるところで目にしたものです。
「落葉(おちば)」煉切製
中の餡は大納言小豆のつぶし餡。 美しく色づいた落ち葉を表現しています。
ささまさんの煉切は本当に美味しい。普通の煉切はしっとり、ねっとりといった感じだが、ささまのものはとても口溶けがよくて、少しサクサクした軽い食感で、甘さの中に独特のコクがあるのです。
「織部(おりべ)」薯蕷製
中は小豆の漉し餡。 11月の炉開きの時に、織部の物を使用すると言う事に因んだお菓子です。
味わい深い緑色と、垣根の焼印の配置のバランスがとてもよいですね。
「秋の山(あきのやま)」羊羹製
上の橙色と黄色の部分が上南羹(じょうなんかん)で下の部分が小倉の羊羹。 真っ赤に紅葉した晩秋の山の姿を現しています。
上南羹とは、寒天で固める流し物の和菓子のことで、錦玉羹に上南粉(きめの細かい米粉)を加えたもの。 一般に練り羊羹と重ねて二層にしたものが多いです。