「みよしの」薯蕷製:鶴屋八幡
薄紅色に染めた薯蕷生地で、備中小豆の黒餡を包み、桜の形押しをして蒸し上げたものです。花芯の部分に白いみじん粉を散らしています。
単に、一輪の吉野桜の花をかたどっているばかりでなく、凸凹した全体的な形は、山桜でピンク色に染まった吉野山の入り組んだ峰々の様子も写しているように感じます。
煉切製やこなし製の上生菓子は具象的な表現も可能ですが、薯蕷製やきんとん製のものはその性質上、全体像をざっくりととらえる抽象的な表現が中心となります。
そのため、その作品を見て感じるときに、より自由な発想で、多様な解釈ができるのが面白いですね。
桜の名所、奈良県の吉野の春は、下の桜から咲き始め、中の桜、上の桜へと、徐々に全山すべてが薄紅色に、おぼろにかすみます。
ここは後醍醐天皇の行宮の地でもあるところから、吉野を「みよしの」と尊称しました。三芳野とも書き、奥の桜までを含めて全体の景観をみよしのと呼びます。