· 

桜餅は、”お新香つきの和菓子”

「桜もち(さくらもち)」道明寺製:濱うさぎ 
桃色に染めた道明寺(どうみょうじ)で餡を包み、それを一枚の桜の葉でくるみ、さらに桜の花の塩漬けを添えています。 

道明寺とは糯米(もちごめ)を蒸して乾燥させ、水びきにしたあと、下にたまった沈殿物のことです。 


突然ですが、漫画家の東海林さだお氏を知っていますか? 

毎日新聞の朝刊に連載の『アサッテ君』を代表とするサラリーマンを主役にした漫画を多数描いていますので、たぶん誰でも一度はその作品を見たことがあると思います。 

東海林氏は漫画以外にも、エッセイの分野でも名作が多く、特に、食べ物のウンチク・雑学などをあらゆる視点から捉えて書いている「まるがじり」シリーズがとても面白いですね。 

食べ物全般について、ユーモアあふれる軽妙な語り口で、言及していますが、もちろん和菓子も取り上げられています。 


今日のお菓子、桜餅について書かれた、東海林氏のユニークな文章を紹介しましょう。 


「桜餅はその名のとおり桜の季節に食べるものだ。そういう意味ではお花見の席にもっとも似つかわしい食べ物といえる。じゃあお花見の宴に桜餅は登場するのかというと登場しない。花より団子。団子にその席を譲る。そういう奥床しさも桜餅にはある。」 


「和菓子は、腹一杯とか、腹持ちがいい、とかで評価されるものではなく、形や彩などが身上であり、上品度という見方からすると、同じ和菓子の中でも桜餅の位置は高い。饅頭より上、ドラヤキより上、もちろん団子より上。」 


「いかにも傷つきそうな餅の柔肌から、桜の葉を慎重にゆっくりとピリピリと剥がしていく楽しさ。葉と餅二人で育んだ密着愛を、ピリピリと破局に導いていく苛虐的な喜び。(中略)葉っぱを剥がして丸裸になった桜餅は、もはや桜餅ではなく、ただの餡入り餅にしか見えない。」 


「桜の葉で覆った桜餅を口に入れると、あたり前の話だがまず葉っぱが歯にあたる。(中略)その塩っぽい葉がピリリと破れたあと急に口の中全体が甘くなり、その甘さのところどころにまだ塩っぽい葉っぱがシャリシャリと残っている。その塩っぽさはただの塩の味ではなく、塩漬けになって発酵した塩分の味だ。桜餅は、”お新香つきの和菓子”。」
 
[東海林さだお/コロッケの丸かじり] より