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猫柳の想い出

「猫柳(ねこやなぎ)」煉切製:青野 


私の少年時代は本当に自然に恵まれていました。恵まれ過ぎていて、当時はそのありがたみがわかっていませんでしたが、今、殺風景な都会に暮らしていると、草木豊かな故郷のことを時折思い出しては懐かしんでいます。 


猫柳が花穂をつけはじめる春先になると必ず思い出す先生がいます。 

中学3年の時の担任だったY先生です。 

私の学校は瀬戸内海に浮かぶ離島にあったため、多くの教師は僻地での赴任を嫌い、2〜3年の任期を終えると、みんな逃げるように都会の学校へ戻っていきました。 

そんな中、Y先生だけは自ら希望して島の学校へ赴任してきて、すっかりこの地が気に入り、かれこれ15年以上も同じ学校で教鞭をとり続けているというユニークな先生でした。 

そんなわけで、祭りや、寄り合いなど、島のいろいろな行事にも積極的に参加し、生徒たちはもちろんのこと、島民からもとても慕われていました。 


ある日、私のクラスの生徒たちが高校受験のために島外に出発する前日、先生は猫柳を活けた花瓶を持って教室に入ってきました。 

「みなさん、これは学校の裏にある江の浦川に咲いていた猫柳です。とてもきれいに花穂をつけていたので、みんなに見てもらおうと思って採ってきました。ほら、きれいでしょう?まるで真珠や絹が輝いているように見えますよね。これも、長くて厳しい冬を頑張ってひたすら耐えてきたからこそ、最後にはこんな見事な花穂を咲かせることができたんですね。猫柳の花言葉は<努力は報われる>です。皆さんの今までの努力が実って無事合格できるように、先生も祈っていますから、明日は頑張ってきてくださいね」 

こんな内容の話だったと記憶しています。 

私の母校の中学校は過疎化のため、やがて入学する生徒もいなくなり、15年ほど前に、ついに廃校になってしまいました。 

その時にY先生は校長を務められていましたが、廃校とともに退職され、生まれ故郷の九州に帰られたと風の便りで聞いています。 


Y先生が採ってきて見せてくれたあの猫柳は今でも同じ場所にまだ生えているのだろうか? 
この季節になると、いつもふと思い出します。