JR新子安駅前にある数奇屋造りの和菓子店、昭和6年創業の「千草庵(ちぐさあん)」を紹介します。
屋号の「千草庵」は、著名な禅僧の詠んだ歌「引き寄せて結べば草の庵にて解くれば元の野原なりけり」の一句から引用し、開業にあたって資金を提供してくれた創業者の父親千次郎の「千」の一字を頂戴したそうです。
初代は多彩な趣味の持ち主で、茶の湯・謡曲・仕舞・鼓・俳画などもたしなまれていたといいます。そういう幅広い造詣が総合芸術といわれる上生菓子作りに大いに生かされたことでしょう。
この店のいいところは、一店舗主義を貫き、商品はすべてご主人の目の届く範囲で管理し、生菓子はその日に作ったものをその日のうちに売る。また、特に茶席菓子には心をくばり、季節感あふれた品々を揃えるように努めていることです。
ここの上生菓子の一番の特徴は、やわらかい色使い。極力素材本来の色を生かした自然な色付けのものが多く、外連味(けれんみ)のない落ち着いた表現が好ましいですね。
ではさっそく、その作品をご覧ください。
「紅葉きんとん(もみじきんとん)」きんとん製
紅葉の色さえも控えめで穏やか。
「山茶花(さざんか)」煉切製
淡い紅色と白の覆輪状のぼかし具合、茶巾のひだ模様がしとやかで気品があります。
「寒椿(かんつばき)」雪平製
寒椿は、椿と山茶花の交雑種。 花弁と雄蕊が合着している椿の特徴と、花弁が一枚ずつ散る山茶花の特徴の両方を合わせ持ちます。
透き通るような雪平の白さが、寒い冬にけなげに咲く寒椿の様をよくあらわしていますね。
「初霜(はつしも)」煉切製
この紅葉の色はこの中では一番鮮やかだが、他店と比べるとやはり控えめで奥ゆかしい。
「水仙(すいせん)」黄味時雨製
うぐいす豆の緑を水仙の葉に見立てています。
「ゆり根上用(ゆりねじょうよう)」薯蕷製
ゆり根のほっこり感と薯蕷のもちもち感の相性抜群。
「柚子饅頭(ゆずまんじゅう)」薯蕷製
さりげない織部釉がおもしろいですね。渋さと新鮮さが同居しています。